サイン

ここに来る途中、財布を落とした。自転車に乗って帰っているのだが、俺の財布は長財布でうしろのポケットから飛び出している。だから危なっかしいと言えば危なっかしいのだが、今までは落としてもすぐ気づいて、取りに戻ってすぐ拾うことで、別に何も問題なかった。

だけど今日は、すぐ気づいて取りに戻ったのだけれど、反対向きに走っていた自転車に乗ったお姉さまが、僕よりも先に財布を拾ってくれて、手渡してくれた。その人は僕が落としたことを気づいているのを、明らかにわかっていたにもかかわらず、拾ってくれた。「大切な財布、落としましたよ」と言ってくれた。

僕はヘラヘラ笑って「ありがとうございます」という以外なく、親切な女性に何かお礼をしたいような、そうでもないような、でもありがたい気持ちです。

今日思ったのは、僕もそのうちもっと歳をとり、財布を落としたのに気づかなくて、パニックになるひがくるだろうということです。しかもそれはほぼ確実に、もう数年したら来るだろうと予想されるということです。

もう僕は後ろのポケットに財布を入れるのを止めるべきでしょうか。ハイ止めるべきです。答えははっきりしています。でも、俺は過去から学ぶという行為が大嫌いなのです。同じ過ちを何度も何度も犯し、バカやろうとして生きていきたいのです。賢しい自分に身悶えするのです。

忘れることを学ぶ。忘れることを学ぶ。俺は常に間違いを犯し、それを忘れ、直立した自分を生きていくのです。